<2024.7.13記>
本コラム欄で過去幾度となく不動産投資をテーマ(№27稼働率・№97インフレ・№104細分化・№123頭と尻尾・№133利回り他)に取り上げてきた。だが、当社の生業だからと言って不動産のみを投資対象として推すつもりは毛頭無く、動産である株式もまた魅力的な投資対象であることに異論は無い。
資産を保有することで得られる利益はインカムゲイン(=Income Gain、継続的収益)と称し、不動産投資では「賃料」、株式投資なら「配当」の名目がそれに該当する。勿論、値上りを機に売却して利益を出すことも可能だ。その利益はキャピタルゲイン(=Capital Gain、売買差益)と称する。どちらも不労所得として美味しい魅惑の果実(法定果実)であることに違いは無いが異なる点も多い。だからこそ分散投資の対象として併せ持つ意義があるというものだ。日本人はとかく金儲けすることに対して罪悪感・嫌悪感を抱く傾向があるように思う。ところが、低金利とインフレ(通貨膨張)が併存するこのご時世では、何らかの利殖に励むことは資産向上というよりも資産維持の為の自己防衛手段の様相を呈している。投資は常にリスクが伴うことを覚悟せねばならないものの、長きに渡るデフレ(物価収縮)期を抜け出した感のある今、投資活動をしないことにもリスク(持たないリスク)が生じていると思う。
まず、それらの大きな違いはその流動性である。金融商品に属する株式の流動性は高く、スマホでさえも売買できるから換金を急ぐ時は成行注文(売値を指定せずに注文)にして瞬時に売却することも可能である。また、指値注文(売値を指定して注文)であっても妥当なレンジなら当日、やや高値挑戦的な指値をしても一定期間継続して売出しているうちに思いの外早く売買が成立する可能性があることも否定しない。なぜなら、株式は良くも悪しくも価格変動(値幅)が大きいからである。対照的に不動産の流動性はとても低い。まずは、売出価格・引渡条件の決断から。同じ業界人として恥ずかしい限りであるが媒介獲得の過当競争の中、売主への忖度が過ぎて不動産仲介会社の査定価格(無謀な高値査定)は鵜呑みにできなくなっている。妥当な価格設定であったにせよ、売り出し前に入念な物件調査が必要であるし、間取図・平面図の作成や写真・動画等広告素材を収集して販売準備するだけでも相応の時間を要する。仮にインターネット広告が功を奏して早期に集客できたとしても購入検討者からの多岐に渡る質問に回答したうえで問題点を解決せねば商談は進まず、ご案内(実物を見学)、融資審査、価格・引渡し条件の調整、重要事項説明等々、契約までに多大な時間と労力を要することが多い。偶々特殊需要で売り出すなり即決、全額自己資金で一括決済できる商談に恵まれることも稀にはあるが、一般的には売り出しから成約まで2~3ヵ月、居住中の家の売買なら契約から引渡しまで更に1ヵ月~3ヵ月、つまり換金できるまでに要する期間は売り出しから3~6ヵ月程度掛かっても珍しくないということだ。また、適正価格で購入した不動産がたった1日で半値(又は倍値)になることは考えにくい。地政学的要因(戦争)や激甚災害等、余程の理由が無い限り短期間では実感できる程の粗い値動きは無いのである。
売買に伴う手数料額にも大きな違いがある。株式売買はインターネットの普及により業務が極限まで効率化されており手数料はとても安い。約定代金の価格帯や様々なサービス内容(選択する取引コース)の違いにもよるだろうが大雑把に言うと手数料率で成約価格の1%未満が当り前である。対して不動産は思いつきのワンクリックで成約することなど(今のところ、)あり得ないし、多額の広告費と人件費が掛かることもあって売買仲介手数料(上限)は「本体価格×3%+6万円(但し、成約価格400万円以上の速算法)」まで認められている。また、税務知識を駆使すればどちらも相続評価を引き下げる効果があるものの、株式には建物の減価償却に該当する概念は無い。株式はAIによる高速自動売買も可能だが不動産はそうはいかない。株式は短期投資も可能な銘柄も多いが不動産は一般論として長期投資に向くもの。総括すると共に投資対象物件ではあっても性質(長所・短所)は全く異なるものと言えよう。
さて、株式を分析するうえで用いられる数々の指標のうちで一つ気になるものがある。証券市場を俯瞰的に眺めると上場する不動産会社や建設業の多くがPBR(=Price Book-value Ratio、株価純資産倍率)が解散価値である1倍を割り込んでいる現状にやや違和感を覚えるのだ。PBR(株価純資産倍率)は株価が1株あたり純資産の何倍の水準を示したものであるから最低水準であるべき1を割るということは時価総額が純資産を下回っているということになる。本来であれば敵対的M&A(=Mergers and Acquisitions、企業の合併・買収)の標的になってもおかしくないのにその兆候は微塵も感じられない。高配当にも拘わらず株価は容易に上向かない。単なる過小評価でないとすれば其処にはその会社のみならず、業界に対して何らかの厳しいメッセージが込められていると解釈せざるを得ない。
不動産も本来の価値1倍(相場)を大きく割り込むことがある。前述の通り流動性が低い訳であるから換金を急ぐ場合は敢えて売出価格を安値設定にせざるを得ない。また、何らかの理由で借家人と係争中である場合もそれを引き継いで貰う買主に価格調整を以て報いる必要がある。借地権は地主の承諾内容一つで融資の可否が分かれる。融資が不調となれば買主は全額を自己資金で購入可能な人に限定されるから思うようには売れない等々。まぁ、そういった難局があるからこそ我々(不動産会社)の出番もあるのだが・・・。
ふと思う。株式で言うところのPBR1倍割れと同じことが区分所有マンションの管理組合にも起こるのではないだろうか。土地・建物相当額(全戸分の査定額の積算)に管理組合費(修繕積立金等の貯蓄残高)を加算した額から建物解体費用等を差し引いた額が土地値(土地相場)を大きく下回っても投資家が関心を示さない、そんな時代の到来が近いのかもしれない。売却経費を勘案した区分所有権の総額が大きく土地値を割り込めば、本来は過小評価されたその権利全ての買収に乗り出す投資家がいてもおかしくないし、ゼネコン・ディベロッパーから建替えの提案があって然るべき状況のはずである。なぜなら土地値以下なのだから。それにも拘らず、コミュニティの再生事業化に誰も名乗りを上げる者が無いとすれば、その無風状態を平穏無事で幸いなことと呑気に構えるべきではなく、危機感を持って限界マンションに陥ったときの解決策を模索しておいた方が良いと思う。
万が一、区分所有者で構成される管理組合が株式市場に暗躍する禿鷹(守銭奴)ファンドのような地上げ集団の的になってしまったのなら、M&A用語で言うところのホワイトナイトが颯爽と現れて画期的な再建案をもって解決することを期待したいものだ。当社はいつも白馬の騎士の立場でありたいと思っている。「いざ、鎌倉(コラム№23)」の心意気にて。
このコラム欄の筆者
齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)
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