<2024.8.10記>
成功を重ねるある個人投資家に不動産を売買するタイミングの決め手について意見を求めたところ、「渡り鳥は然るべき時期に然るべき方角に旅立つ。それと同じで売買の決断は本能の赴くまま」とのやや拍子抜けのする回答があった。要するに「理屈じゃない」ということになる。その言葉を鵜呑みにするわけにはいかないが、投資判断の核心を突くかの説得力さえも感じる。私自身もコラム№8(登山)で述べているが、バブル経済絶頂期に不動産投資セミナーの講師、経済評論家、投資How To本の著者(その他、不動産投資の先生方)といった錚々たる博識の面々が経済理論に基づいて声高に繰り返す「今こそ」とか、「これしか」といった「定説」は悉く間違っていた。
不動産仲介をしていると良く耳にする質問に「この物件は値上りする?」があるが、売らんが為に「絶対値上りする!」と断言する営業マンなど「絶対儲かるなら君が買えば?」と鼻であしらうが良い。そんな営業マンほど売主には「絶対売っておいた方が」などと二枚舌で立ち回る「千三つや(嘘つき)」であったりするのだから。そうかと言って何を聞いても「五分五分」、「やってみなければ(分らない)」といった逃げ口上でお茶を濁すばかりの営業マンも困り者だが、そもそも投資の世界に「絶対」は無くリスクがあってリターンがあるもの。大きなリターンが期待できるもの程に大きなリスクが伴うことを覚悟しておいた方が賢明だ。事実、相場の神様と呼ばれた江戸時代の米商人(相場師)本間宗久翁でさえ一度は破産の憂き目を経験している。別府観光の父・別府の恩人と尊敬されつつ、子供達から「ぴかぴかのおじさん」と親しまれ、明治末期に大活躍した実業家(相場師)油屋熊八翁も然り。(日清戦争後の投機失敗で一度は全財産を失う。「生きているだけで丸儲け」の名言を残した人。先頃、読者コラム執筆者のカッパさんにお招き頂いて別府を訪れた際に駅前の銅像を見て翁の功績を知るところとなった。)
但し、不動産業に携わる営業マンたるもの相場・商品企画・紛争回避等あらゆる面で知識と経験に裏付けられた予見能力は必要なスキルだ。また、その所見を述べる力も。自分なりの考えすら表明できない人は営業ではなく作業をしているだけである。単なる作業(伝言係)の報酬なら口銭料と揶揄されても致し方ない。念の為に断っておくが私が求めるべきでないと言っているのは予見ではなく人智を越えた予言のこと。予言は真偽不明の超能力の類いと考えるからである。それは文字通り人間の能力を超えたものであり、人の深層心理に静かに眠る憧れでもある。古くは魏志倭人伝に登場する鬼道の卑弥呼、平安時代に為政者から陰陽師として重用された安倍晴明、ルネサンス期なら占星術師ノストラダムスらが予言者として広く世に知られた人物だ。伝説的予言者の評判は後世に口承・伝聞を重ねる内に図らずも神格化されてしまった可能性があるので彼らの超能力の有無は肯定も否定もできない。1900年代に輪廻転生説を唱えて心霊診断を行なった米国人エドガー・ケイシーが残した数々の奇跡は実録があるにも拘らず今以て科学的には謎が解明されていない。まぁ、世の中には摩訶不思議なことも多いから全否定すべきことでもないだろう。そうそう、予言と言えば女流漫画家たつき諒氏が1999年に刊行した著作「私が見た未来」の表紙に「大災害は2011年3月」と描かれていたのは事実であり、奇しくも東日本大震災の発生時期と合致する。そのたつき諒氏の予知夢では「次の大災難は2025年7月」だそうだ。どんな情報であれ、心ある注意喚起と受止めれば素直に耳を傾けて常日頃から激甚災害に備えることに損は無い。
これは予言でも予見でもなく常識に近いが不動産価格は騰落が繰り返されたとしても、概ね30年の超長期的サイクルで見れば騰がると答えてもほぼ間違いではないだろう。経済成長があれば適度なインフレ率はあって然るべきで、そのインフレに強い資産の代表格が不動産だと言える。ハイパーインフレ(悪性の極端なインフレ)やスタグフレーション(物価高騰と不況の併存)は困るが適度なインフレなら憂いを感じる必要など無い。だが、30年サイクルだと人は(最高値・最安値の)時を待てない。運不運があろうとも与えられた人生の中で買い時・売り時を決断するしかないだけのことだと思う。
僭越ながら相場に関する私の所見を申し上げておく。あくまでも個人的な見解ではあるが自己居住目的に購入する不動産に限っては市場価格の騰落(損得)に一喜一憂することなく、住み心地の優劣や身の丈に合った価格帯であるか否かに重きを置いた方が良いと思う。投資用・事業用資産はともかく、居住用の資産に関しては徒に値上りを喜ぶべきでなければ値下がりを徒に悲しむべきでもない。なぜなら、同じエリア内であれば自宅が値上りするときには住替え先も値上りしているだろうし、値下がりした時は住替え先も値下がりしているはずだから。そもそも「家」は住むためのものである。また、借入の重み(負担感)は人それぞれに異なる。だから、住宅ローンの実際の支払額(金利動向)と収入(年収増減)とのバランス、即ち「返済比率」の動向を気にする人の思考の方が健全だと思えてならないのである。
このコラム欄の筆者
齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)
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