思うところ178.「エアコン故障」 | 東京駅・茅場町・八丁堀の賃貸事務所・賃貸オフィスのことならオフィスランディック株式会社

TOPコラム一覧

  • 思うところ178.「エアコン故障」




    <2024.9.2記>
    井上陽水作詞・作曲の「少年時代」の歌詞「夏が過ぎ・風あざみ」の場面に当て嵌まる季節とは今頃のことを言っているのだろうか。因みに「風あざみ」という植物はこの世には存在せず、ノアザミ(野薊)のことなら初夏に咲く植物。そもそも俳句の世界においての「薊(あざみ)」は春の季語である。「風あざみ」はあくまでもイメージを優先して用いた造語らしいが、その語感は見事に私の脳内に夏の終わり、秋の到来を告げる風景を映し出す。常識では思いもつかない言葉を平然と紡ぐ御大の表現力に改めて己の凡庸を思い知らされる。

    夏が過ぎたとはいえまだまだ暑い。この季節の出来事を振り返るには時期尚早かもしれないが、今年の猛暑が尋常でなかったことはエアコン故障の多発が物語っている。夏は暑さ(冬は寒さ)でエアコンに掛かる負荷が過大となる為に同時期に故障が発生し易い。その結果、苦情の初期対応にあたる我々は修理費・交換費の見積り手配や貸主への報告・提案に神経を磨り減らすことになる。それなのに不測の事態の出費に貸主が抱く不満や暑さに耐えかねる借主(入居者)の苛立ちの矛先、言うなれば言葉の刃が我々に向けられることさえある。想像すれば背筋が凍るような惨状に悪寒を覚え、真夏にして冷や汗をかきながら次なる故障を予感して肝を冷やす、という心理的な温感が滑稽なまでに実態と矛盾する難局に陥るわけである。当社の保有物件ならいざ知らず、管理物件と謂えども貸主の承諾無しに修理・交換の発注はできない。そうかと言って人命にも関わる一大事でもある。そんな苦しい胸の内もあって賃貸管理に従事する者の立場からこのエアコン故障問題を考察してみたい。

    使用期間が10年超のエアコン故障(通常はエアコン本体の故障なら購入日より1年間は保証期間!)については貸主に新品交換を提案し易く、また貸主もそれを納得し易い。なぜならエアコンの寿命そのものが10年~15年である為、その場しのぎの部品交換で済ませれば「遅かれ、早かれ」が明白、却って負担金が嵩むからである。それに購入してから10年も経つと補修用性能部品が見つからないことも多い。特に制御基板(動作に命令を送る精密機材)の在庫が無ければ修理を施しての再利用は即諦めた方が良い。令和2年の民法改正で賃貸物件の一部使用不能時における賃料の減額が第611条に明記されたし、公益社団法人が策定した賃料減額のガイドライン(減額の目安)もあるが、未だに絶対的な決まりは無いので故障が長引けば無用な紛争の火種となりかねないのである。その昔、20年超使用するエアコンを部品交換で済ませようとする人に新品への交換を提案したところ、「俺を貧乏人扱いするのかぁ!」と激高された。予見能力を発揮して故障を未然に防ごうにもその親切心が容易には理解されず、予想通り故障が再発して新品交換(修理と交換の二重払い)の憂き目に遭うや否や、「もっと強く言って欲しかった・・・。」との恨み節は当方からしてみれば心外なものである。

    私は予てより漏水対策は事故が起きてから行なうものではなく、事故が起きる前に行なうものと提言してきた。(コラム№76№128)その考え方はエアコン故障対策にも相通ずるものだ。具体的に言うと投資用不動産に設置したエアコン(貸主の設備扱い)なら、長くても15年が寿命と割り切るべきであり、故障する前の10年~12年辺りで計画的に交換した方が得策ではないか、ということである。特に共同住宅の場合は季節外れに一斉交換(複数台一括購入)すれば本体も取付工事費も割安に済む。(黒字幅を勘案して数年に分けてフロア毎に交換するのも一案)家庭用エアコンの法定耐用年数は家庭用で6年(業務用は13年又は15年)であるが取得価格が10万円未満であれば消耗品費としてその年度に費用計上ができるし、取得価格が10万円以上20万円未満(かつ耐用年数1年以上)の場合は一括償却資産(備品)となる。一括償却資産は減価償却こそできないが取得価格を3ヶ年に渡って3分の1ずつ経費計上できる。また、20万円以上の高額商品なら「備品」又は「建物附属設備」として固定資産になる。どうか額面ばかりを気にせずに節税効果にも着目して欲しい。

    今年の夏はエアコンを新品に交換後僅か1年と数ヶ月で寄せられた苦情があった。それは典型的なエアコン不具合の一つで「ドレン管(排水管)からの水逆流」だったのであるが、この些細な事案にも触れておきたい。排水の逆流はフィルターの清掃の怠慢でドレン管内にゴミ・埃(それにカビが生えて膨張したもの)が詰まって起きることが多い。そのエアコンを設置した業者が現地調査をした結果、ドレン管の勾配不足が原因だから無償で直す、との申し出があり、ゴミ・埃を撤去、勾配を修正してくれたお陰ですぐに復旧した。だが、私はその勾配不足のみを原因とする現地調査の報告が正しいものだったか懐疑的な見方をしている。なぜなら1年以上正常に機能していたドレン管が大地震でも無い限り、ある日突然勾配不足になるはずはないからだ。そうかと言ってバルコニー内の清掃は行き届いていたし、室外のドレン管口からの水滴は空中から落としていたので落ち葉や虫の侵入による詰まりの可能性は低い。入居者に心当たりが無いものか確認したところ、犬好きの入居者は綺麗好きでもあってフィルター清掃を怠ってはいないと言う。

    私の見立ては次の通りである。本事案を読み解く為の注目すべきキーワードは二つ、「犬好き」と「綺麗好き」だ。短期間でドレン管を詰まらせたのは単なる埃ではなく室内に飛散した犬の抜け毛ではないかということ。また、綺麗好きであったとしても市販のエアコン洗浄スプレーの使い方が間違っていた可能性があるのではないかということ。専門業者の使う高圧洗浄機と違って市販のエアコン洗浄スプレーでは完全には汚れを除去できないことも多く、すすぎ方が不充分であると洗浄液が内部に残ってしまい、それがカビの栄養分になる。また、洗浄スプレーの使用直後はエアコン内部の湿度が高くなっているから却って汚れが附着し易い。だから洗浄後に2時間程度の送風運転が必要になるのだがそれを知らない人は多い。其処に掃除機に吸い込まれることなく室内を浮遊した後、エアコン内部にまで到達した犬の抜け毛があったとしたら・・・。つまり、入居者がどんなに綺麗好きであったとしても、それが間違った清掃方法ならば、ドレン管内部をより詰まり易い環境に悪化させていたと考えられなくもないのだ。その状態であれば、本来は許容されるはずの僅かな勾配不足であってもドレン管詰まりの原因となった可能性があるということを申し上げているのである。穿った見方をすれば、その業者は詰まりの原因が一部居住者にも責任のある複合的なものであることを知りながら(立証困難?専門的な説明が面倒だから?)余分な言い訳などせず、当社との良好な取引関係を保つ為にも全ての責任を被ったのではないだろうか。

    我々の仕事は苦情の中にも学ぶこと、言外に感じ取らねばならぬことが実に多い。


このコラム欄の筆者

齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)

オフィスランディックは中央区を中心とした住居・事務所・店舗の賃貸仲介をはじめ、管理、売買、リノベーションなど幅広く不動産サービスを提供しております。

茅場町・八丁堀の貸事務所・オフィス, 中央区の売買物件検索
PAGETOP