<2024.11.1記>
当社は本日(令和6年11月1日)を以て山本ビル(以下「Mビル」)7階から岩崎ビル(以下Iビル)2階に事務所を移転する。(実際のオフィス家具の移動等は昨日)大袈裟に事務所移転と言っても旧住所は日本橋茅場町一丁目11番9、新住所となるIビルの住所は日本橋茅場町一丁目11番6だから住所の末尾の数字が天地逆転するだけ、電話番号は疎か管轄税務署さえも変わらぬ超至近距離への引越しである。(互いの敷地の最短距離は10m未満)
発端は昨年末(?)にMビルオーナー(以下「旧貸主」)が中古ビルの再生再販(買取り転売)をビジネスモデルとする不動産会社(以下「新貸主」)に当社が平成22年12月より営業拠点を構えるMビルを売却したことだった。旧貸主が先代から受け継いだMビルの売却を決断するに至った経緯は利害関係者である当社(借主)の立場では知る由もない。だが、Mビルは新耐震新基準(昭和60年築)の建物とはいえ、至る箇所に老朽化(構造クラックや鉄部腐食)が進んでおり、抜本的なリニューアル工事の実施が必要な時期に差し掛かっているのは一目瞭然のことである。推して知るべし、といったところか。
新貸主が専有部に至る全面的リニューアル工事を実施したい事情は同業者として容易に察しが付いた。なぜなら、当社の手掛ける区分所有物件(中古マンション)の再生再販事業と考え方は同じであり、何らかのバリューUP(価値向上)をして収益性や居住性を改善しなければ目標とする再販価格にならないからである。改善策は沢山あるが費用対効果次第といったところだろう。例えば、現況各階2区画ある事務所を結合させればEVホール・通路もまでもが賃貸有効面積となるし、男女別トイレの新設も可能になる。漏水(湧水?)があって長らく空室のままだった地下室も改修工事を行なえば収益化できるだろう。また、屋上に休憩所でも新設して周辺ビルと差別化できれば再募集時には魅力的な共用部の特性として訴求力が高まるに違いない。IT環境やセキュリティ面を向上させるのも一案。建築確認の取得時は駐車区画だったと思われる現況店舗は法令遵守の観点からは用途見直しか何らかの是正措置が必要かもしれない。
バリューUPの手法は私が口出しする立場にないが、Mビルは改善の余地(=ポテンシャル)が充分過ぎる建物なのである。むしろ、宅建業者が何もせぬまま高値で転売を目論むような販売姿勢の方に疑問を感じてしまうし、安易な転売はコラム№180で言うところの「不動産転がし」と見做されても致し方ないと思っている。だから、Mビル全テナントに立退きを急く新貸主の要望に正当事由が見当たらずとも嫌悪などは感じなかった。また、新貸主の担当者が当初から腹を割って話してくれたことにも好感が持てた。もし、担当者が新貸主として高飛車な態度で屁理屈を並べ立て、私を言い負かそうという邪な気持ちがあったならば快く明渡し要請に応ずることは無かったと思う。それは私の交渉力を自負するものではない。普通借家契約に基づく賃借権とは、それ程までに強固な権利なのである。
勿論、事務所移転の決め手としては新貸主が相応の立退料に応諾してくれたことも大きい。それでも受領する立退料と移転費用を差引きすると当社に金銭的な利益は無い。守秘義務があるので多くは語れないが新貸主と借主である当社は互いに不動産に関するプロ同士、だから不毛な激論を交わすことも無く、僅か2回の協議(歓談)をしただけで先月(本年10月末日)に事務所を明け渡すことが決まった。そもそも私は立退問題における「ゴネ得」は嫌いなのである。(「コラム№174新説・立退交渉」参照)法律家(裁判官・弁護士・不動産鑑定士ら)に法律論争を挑むつもりなど微塵も無いのだが、民間取引に用対連基準(公用地の取得に伴う損失補償細則)を持ち出すのは的が外れていると思うし、控除法という理論を用いて法外な借家権価格を導き出すことは権利の濫用に繋がっている。それに貸主の仏心で設定された割安賃料に対しての賃料差額補償(割安で貸していた程に立退料が跳ね上がる。)という考え方は根本的に矛盾しており道義的な問題があると思う。要するに法律論争などは抜きに信義誠実を重んじて「長年の恩を仇で返すことがあってはならない」と考えるべきだと思っている。但し、Mビル取得直後の新貸主には長年の恩は無い。しかも同業者である。だから、緻密に通損補償額(事務所移転によって被る損失の積算額)を算出してビジネスライクに提示し、その正当性が認められて満額回答を得たに過ぎない。
だが、Iビルへの移転費用が大き過ぎた。実はIビルは当社が賃貸管理業務を請負っている建物(=管理物件)である。当社は入居にさせて頂くにあたり、Iビルオーナーに感謝の意を込めてトイレの新設工事を当社の費用負担で行なった。また、単にオフィス家具を移転するのではなく、事務所の内装に従前同様に多額の費用を掛けた。それらはあくまでも私の経営判断による独自の出費であって新貸主に責(せめ)は無い。だから、この度の事務所移転費用の赤字は受忍限度内と割り切れるのである。
さて、前述の「緻密な通損補償額」なるものにつき、その項目と額について関心のある方は以下の私の独り言(謂わば「愚痴」)をヒントにそれらを読み解いて頂きたい。幸いにも当社は移転先事務所の貸主と直接取引ゆえ仲介手数料は掛からない。貸主との信頼関係があって家賃保証会社加入は免除されている。だからその補償相当額は図らずも当社の特別利益になる。だが、当社の原状回復義務が免除されたとはいえ、美観を重視して施した折角の内装が無になる損失は大きく虚しいものがある。これから会社の本店移転登記(本店移転の日から30日以内)をしなければならない。勿論、本店移転登記が完了したら東京都と加盟団体にも宅建業免許の変更を届け出る。また、社有物件(30物件近く)の住所変更登記の手続きにも着手しようと思っている。自社施工とは言え、多額の工事費を掛けることとなった新事務所の設計や設備・仕様決めには随分時間を要した。オフィス家具の移転は引越業者に委ねたが丸2日間は休業状態となった。個人情報を含む重要書類は数日に渡って手運びをした。細かいことを言えば社封筒や名刺・看板等、住所が入っているものは全て作り直しだ。顧客や取引先に引越しのお知らせもしなければならない。金銭的負担のみならず時間と労力の損失も大きいことは否めない。この度の事務所移転で「立退料」が「迷惑料」とも称される所以を我が身を以て知ることとなった。
さはさりながら、期待に胸を膨らませていることもある。Iビル2F事務所は賃料総額で見ればMビルより若干負担増になるものの、(立場上言いにくいのだが、)Iビルは建物が古く(昭和50年築、旧耐震基準)、設備・仕様が劣る分、坪単価としては割安な物件である。よって、当社は実益(経済的合理性)を優先して余剰面積を有する程の拡張移転を果たすことができたのである。つまり、「古さ」と引換えに「広さ」を獲得(選択)したわけだ。その余剰面積を有効活用し、副業的新規事業に過ぎないものの、巷で流行っている貸会議室(2区画)の運営を来月(12月)より実験的に開始する。1区画は定員12名(最大収容人数18名)の研修室タイプ、もう1区画は定員6名(最大収容人数8名)の応接室タイプ、我々が傍らに常駐する貸会議室であるから当日の現金払いや各種サービス(コピー・お茶出し等検討中)も柔軟に対応可能であり、その希少性は高いと思う。会議室や応接室の時間借りの需要が無ければ広々と自社使用するだけのこと。割と気楽なお試し企画にワクワク感が止まらない。
このコラム欄の筆者
齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)
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