思うところ184.「下水に纏わる不都合な真実」 | 東京駅・茅場町・八丁堀の賃貸事務所・賃貸オフィスのことならオフィスランディック株式会社

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  • 思うところ184.「下水に纏わる不都合な真実」




    <2024.12.2記>
    汚水管に関する問題点については既に№47(掲示物)№68(詰まり)№113(設計)で、類似のテーマとしては雑排水管の問題点も№79(ディスポーザー)№83(断水、その後)で取り上げた。だが、不動産の売買・賃貸・管理の全てに携わる者としての目で下水道関連を隅々まで見渡すと「思うところ」は他にも沢山ある。私は建築士の資格を有しているわけではないし、その分野(下水処理)の研究者でもないのだが、深刻な下水道に関する諸問題と向き合う機会(実体験)は仕事柄あまりにも多いので「下水に纏わる不都合な真実」と題して今一度書き足しておくものとする。

    建物配管の詰まりに関しては実に不都合な真実が多い。例えば、(密室のことだから推測の域を出るものではないが、)必要最低限の水量となる節水型トイレは思うように流れないことも多いはずである。その時は複数回流すことになるから却って水の無駄使いになりかねない。本来、水量・水流のレベルは大・中・小の三段階が必要ではないだろうか。また、№68(詰まり)で述べた通り、「トイレにそのまま流せる!」と商品開発した企業が喧伝する水解性に優れた掃除用(厚手の)紙製シートであっても、老朽化したビルの汚水管においては必ずしも流れるとは限らない。高品質である程に丈夫であることが求められるが故に水解性は劣る「ティッシュペーパー(トイレに流せないタイプ)」は当然に詰まりの原因となるのだが、その事実を知らない人は多い。現に行楽地の紙切れの公衆トイレで用を足そうとする人の多くが当り前のように「ティッシュある?」と聞くではないか。下世話な意見ではあるが女性は「小」の用であっても、汚水管の詰まりを注意喚起する掲示物のある古い建物でトイレットペーパーを多めに使ってしまった時は水量「大」を選択しないといけないと思う。置かれた状況次第で節水よりも詰まりトラブルを回避する柔軟性のある思考が大切なのであって四角四面に小便だから小用の水量で流せば良いというものではない。

    同コラム(№68)で汚水配管内表層(特に継ぎ目部分)の腐蝕・劣化によって摩擦力が増したビルの鉄管は流れるはずの紙(トイレットペーパー)すら流れないことが多いと述べたが、実は錆びることのない塩ビ管を採用していても尿石(カルシウム化合物)の付着で汚水管が塞がれたり摩擦力が増して詰まりが発生してしまうのが実情である。汚水管の勾配不足の問題を抱える建物の場合、築20年を経過したあたりから汚水管内に幾重にも付着した尿石は相当な厚みになっていると思う。雑排水管に関して言えば、横引部分が長く配管の勾配が不充分であるなら築浅のマンションでさえ詰まりが頻発しているはずだ。ほぼ竪管しかない単純構造の戸建の汚水管が築50年を経過しても詰まらないのは家主の手入れの成果のみならず、万有引力の法則に素直に従っているからだろう。塩ビ管は鉄管に比べて衝撃には弱くとも錆びない。大地震にでも遭わない限り、安価な塩ビ管の方が往々にして長持ちの結果となっているのは何とも皮肉なものである。そう言えば、昭和の時代に二度起きたオイルショック(昭和45年・53年)の時に資材高騰の煽りを受けてコンクリートに安価ではあるが塩分過多で建築資材としては不適格な海砂を使う過ちを犯したが為、後に建物躯体に生じた塩害で長年非難を浴び続けることになったH工務店、その当時供給した分譲マンションの多くが共用部は配管むき出し、室内は段差だらけの設計(「ザ・H工務店」と揶揄される安普請の設計)だが、設計のあり方だけに限って考えれば、その無骨なまでの設計の方が汚水管・雑排水管の更新工事が容易であるから大規模修繕工事費が格段に安くなる点は再評価すべきかもしれない。むしろ、美観(見映え)重視、フラット(床段差無し)設計に拘った今時のマンション程に勾配が適正ギリギリであったり、階下の天井に食い込む専有管があったりと将来表面化するかもしれない難題を抱えている。

    ディスポーザー(生ごみ粉砕処理機)で繊維質の多い筍や枝豆のさやが粉砕処理できないのは良く知られているが、卵の殻が雑排水管内で沈殿・堆積してしまう恐れがあることはあまり知られていない。雑排水管の詰まりトラブルについては、ある家主(アパート経営者)の嘆き節が記憶に残る。入居した外国人留学生がキッチンの排水口に大量の残飯を無理やり押し込んで詰まらせてしまったそうだ。その留学生は「日本の排水設備の技術は世界最高水準だから何でも流せると思った。」と家主に陳謝。もしかすると都心のタワーマンションで普及したディスポーザーの情報が誤って海外に伝わっていたのかもしれない。(又は日本人の自尊心をくすぐる上手い言い訳だったのかも。)いずれにせよ、食文化の違いで大量に流される食用油は困ったものである。油は雑排水管内で冷えると固まって経路を塞いでしまう。だからこそ定期的な高圧洗浄が必要であるのに入居者(特に単身者)は作業予定日・その予備日のどちらも都合が悪いからと言って清掃業者の入室になかなか応じてくれない。

    私は一定規模の共同住宅(例えば100戸超、又は延床3,000㎡超)の新築計画にはディスポーザー設備とバクテリア処理槽の設置をワンセットで義務付けた方が良いと考えている。ところで、地域を限定にしてさえも(例えば東京都心3区のみ)バクテリア処理槽無くしては本当にディスポーザーを設置してはいけないのか?実は東京23区は80%以上の地域で汚水・雑排水・雨水について合流式の下水道となっている。これは古くより人口が密集する都市部では早期に下水道を整備して疫病対策(衛生環境の改善)をする必要があったことから経済的かつ効率的だという理由でやむなく合流式の下水道を選択した歴史的背景がある。(本来は環境負荷を考えれば「分流式」が望ましい。)要するにキッチンや洗濯機から流される雑排水もトイレから流される糞尿も結局は同じ本管で合流するのである。ならば、糞尿が流れて粉砕処理された残飯が流れない(「ウンチ」は流れて「ミンチ」が流れない)というのはどうも合点がいかない。「ならぬものはならぬ!」と上から物申されるよりも、本当は流れるけれど認めればマナー違反をする人が何をするか分からないから駄目だとか、又は水再生センターの汚水(汚泥)処理能力が追いつかないから駄目だというように具体性を以て説明されるならば腑に落ちる。ならば、汚水問題に関する啓蒙活動と水の再生処理能力を何倍にも増強できる技術革新があれば、ディスポーザー設備の普及は行政が負担に喘ぐ生ゴミ回収業務害獣害虫・悪臭・ウイルス対策等を画期的に軽減できる切り札となる可能性を秘めている。同時に東京都が有機肥料や汚泥由来の煉瓦やタイルの一大産地として世間に名を轟かせることになるかもしれない。やや乱暴な提言であるが、それも循環型社会の再構築と言えないだろうか。

    最後に最も耳障りな真実を申し上げておく。合流式の下水道の弱点は大雨の時には市街地の浸水を防ぐ為、やむなく汚水混じりの雨水を河川や海に放流せざるを得ないという事実である。大雨が降った後に「何か臭いな」と感じるのは当然のこと、希釈されているとは謂えども何せ糞尿が混じる汚水が身近な水辺に放出されるのだから。(東京都の下水道は1時間あたり50㎜超の豪雨を想定していない。今では珍しくも無くなった50㎜/hのゲリラ豪雨だと下水管内の雨水量は汚水量の70倍、水再生センターでの全処理は完全に不可能となる。)実はフランス・パリの下水道も合流式を採用している。フランス政府が国を挙げて為した水質改善の努力は一定の評価をすべきだが、先のオリンピックでセーヌ川をトライアスロン(スイム)の競技場としたのは甚だ疑問である。私の見立てに間違いが無かりせば、雨後の競技はパリ市民の糞尿が混じるセーヌ川で国を代表する程の一流選手達が大腸菌に塗れてTV画面からは伝わらない臭気の中、死力を尽くして奮闘する悲哀に満ちた悍ましい光景だったことになる。

    ふと気が付けば、本コラムで定期的に己の心情を吐露することがカタルシス(=哲学用語、「浄化」)程に高尚なものではないが、私の抱く疑問、時に憤りを洗い流す「心の高圧洗浄」になっている。(苦笑)


このコラム欄の筆者

齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)

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