思うところ188.「争族?負動産?」 | 茅場町・八丁堀の賃貸事務所・賃貸オフィスのことならオフィスランディック株式会社

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  • 思うところ188.「争族?負動産?」




    <2025.2.1記>
    私は30年以上前から幾度となく、「(原則として)売れないものなどありません!」と断言してきた。それは傲慢な気持ちから発せられた放言ではなく、売主の不安を払拭する為の巧言でもなかった。相場は需要と供給の一致するところで形成されるから売主と買主に歩み寄りの気持ちさえあれば売れないものはないとの市場原理を述べていたに過ぎない。その一方で不動産を売るために何らかの負担金を支払う(価格の合意形成がマイナスレベル)、そんな時代が到来する予感もあった。親族間で繰り広げられる争奪戦の対象となる「相続財産」が「争族財産」と呼ばれて久しいが、過疎地では保有するに値しない「不動産」が「負動産」と皮肉られるようになってしまった。

    そのような「負動産」対策の一環として通称:相続土地国庫帰属法が令和5年4月1日施行された。そのお陰で今では相続又は遺贈により土地を取得した者が国に対してその土地の所有権を国庫に帰属させることの承認を求めることができる。従来の税法には相続放棄すると一切の遺産が相続できなくなるという手痛い代償があったことを考えれば、土地だけを手放せる点は画期的な制度改革と一先ずは評価したい。しかしながら、解決すべき要件(境界確定更地のみ・付着権利の除去等)が多く、管理に要する10年分の費用を納付する必要まであることもあって制度の利用者は今のところ極端に少ない。要件を緩和し過ぎれば無責任な権利放棄が横行するだろうから致し方ないことであるのだが。

    民間取引で起きている負動産化現象は管理運営が破綻した築古リゾートマンションの(実質的)無償譲渡が典型的な実例だ。バブル期には何千万円もしたような部屋が専有部のリフォーム費用や共用部の大規模修繕一時負担金を勘案するとマイナス価格になる程に相場が落ち込んだコミュニティが実在する。所有を継続すれば維持管理に要する費用負担が重過ぎるし、貸そうにも借り手がなかなか見つからず、見つかっても割に合わない。そうかと言って自己使用するには往復の交通費が馬鹿馬鹿しい。保有するならリゾート会員権の方が使い勝手が良いし、好きな時に好きな場所に出掛けたいと考える人が多い。よって、前述の国策同様に所有権移転後の数年間分の共益費を一時金として支払ってまでも誰かに「貰って欲しい」となる。売買価格は1円とか、10円とか形式的なもの。税務署が贈与の疑い有りと事実認定に乗り出したところでその取引に不当な廉価売買の実態はない。本当にマイナス資産になってしまっているのだから。

    マイナス資産に陥る原因は様々である。総じて当社の営業エリアとは無縁の流動性が乏しい地域に起きる現象であるのだが、容易に買い手が見つからない地域では建物の解体費用が土地値相当額を上回ると無償でも売れないマイナス資産となってしまう。観光地で廃墟のまま放置されたホテル跡や寒村の廃屋などが典型的な例だと思う。その他、雑木林や山林も開発許可が得られなかったり、開発行為が認められたとしても宅地造成工事・インフラ整備に要する費用が莫大で個人の手に負えるレベルにないことが多い。土壌汚染された工場跡地なども改良費を加味しない更地価格では買い手が付かない。重大な心理的瑕疵(事件・事故)が流動性を失う原因となることもあるだろう。

    さて、果たして資産価値の負から正への転換は可能だろうか。年明け早々にTVニュースで取り上げられて注目を浴びた神奈川県横須賀市の市営団地(1960年代開発:月見台住宅)の街再生の試みなどがマイナスの資産をプラスの資産に転ずるヒントになるかもしれない。「天空の廃墟」と呼ばれ、一旦は全戸が空家となった老朽家屋60戸を対象物件として官民一体となって街づくり提案型の入居者募集を開始したところ、古民家ブームの追い風のお陰もあって入居(移住)検討者が殺到していると言う。交通アクセスに多少難はあるが割安な賃料設定や海を望む高台立地はとても魅力的らしい。何と言っても本物なればこその昭和築の雰囲気は新築住宅では醸し出せないものである。きっと移住者自らが街づくりをする高揚感もあるのだと思う。

    ある人にとっては無価値なものであっても、他の誰かにとっては価値あるものに生まれ変わる可能性を秘めていることは事実である。それを第三者が頭ごなしに否定したり批判したりすべきではない。今や先進国は宇宙開発で科学技術力の鎬を削り、月をも開拓しようと一番乗りを目指す時代だ。宇宙開発とは事の次元が異なり、嘗て其処には人々が平穏無事に暮らしていたのである。月でこそないが、月を望み、緑に囲まれ、潮風の薫る風光明媚な集落にフロンティア精神溢れる有志が再集結するというのなら令和の時代に昭和の街を再生することくらい然程難しくないだろう。熱意と創意工夫次第といったところだろうか。この度の「月見台住宅」の街づくりが一過性の古民家ブームに終わらないことを信じて彼らが成功することを願ってやまない。


このコラム欄の筆者

齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)

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