<2025.3.15記>
誤解を恐れずに申し上げると、私はお客様を「神様」だとは思っていない。お客様は大切な、とても大切な「カウンターパート」なのである。何かと不動産会社に絶対服従を求め、「右を向けと言ったら右だけ向いていろ!」といった高圧的な態度を取るお客様がいることは否定できない。また、その理不尽さに何ら抗うこと無く、右の頬を打たれたら揉み手しながら左の頬を差し出せば良しとする卑屈な忍耐を美徳と勘違いしている経営者や営業マンも確かにいる。だが、背面服従を以て白を黒、黒を白と平然と偽る者は鹿を馬と言い張る裸の王様を蔭では馬鹿にして嘲笑っていることに早く気付くべきだ。真実に目を背け、諫言に聞く耳を持たず、嘘で塗固めた甘言に流される時、致命的な損失を被りかねないのが不動産取引である。我々の任務は断じて「巧言令色鮮し仁」ということであってはならず、大切なお客様だからこそ苦言を呈さなければならないこともある。
巷で社会問題化しているカスハラ(カスタマーハラスメント)と呼ばれる過剰要求や不当な言動を繰り返す悪質なクレーマー(claimer、以下略して「CMR」とする。)は昔から存在していた。私は40年近く不動産業に携わってきたこともあって随分昔から沢山のカスハラの現場を見聞きしている。しかしながら、それらの事案には守秘義務があるし、道義的にも安易に多くを語るべきではないと思っている。それでも過去のコラム№11(困った人)、№26(義憤)、№54(苦情)の中で些細なクレームの実例とその見解については許される範囲で書いた。それらとは別次元の醜悪な「カスハラ」は苦情申立ての論法があまりにも支離滅裂であるうえに罵詈雑言の悍ましさが度を超えていて書こうにも書くことができない。
筆舌に尽し難い程のモンスター級CMRが出現する原因について私には一つの仮説がある。言うなれば、「IQとEQの乖離原因説」である。私は予てより不動産会社の営業マンを圧倒する程の舌鋒鋭いモンスター級CMRは知的職業に就いている傾向があることに着目していた。その抜きんでたディベート(相手を打負かすことに主眼を置いた弁論術)の力量からしてIQ(Intelligence Quotient=知能指数)が高いことが推定される。それでいて相手を思いやったり、労ったりすることは苦手で気位が高く孤独な人が多い。辛辣な評価とならざるを得ないがIQが高い反面、EQ(Emotional Intelligence Quotient=感情指数≒心の豊かさ)が低いことが疑われるのだ。つまり、CMRの本質(心の闇)はIQとEQの乖離による人格障害の一種ではないかとの仮説である。
極端にIQが高くて極端にEQが低いという歪な(アンバランスな)能力の持主が頭の良さを武器に社会的地位を確たるものにして発言力が強まると、逆にそれまで彼の過剰な攻撃性を諫めていた周りの良識人の抑止力は弱まってしまう。そうなると学問的には優秀な頭脳の持主でありながら人格的には問題の多い奇人がモンスター級CMRに変身、突如として狂気の暴走スイッチがONになるのではないかと私は見ている。CMRにはコラム№166で言うところの「鈍感力(大らかさ)」は皆無で融通が利かない。人の痛みや真意が汲み取れないから自分がなぜCMR扱いされ、なぜ嫌われてしまうのかが理解できずに一層憤る。それは利己的な貧しい心の大金持ちが周りから孤立して抱く不満や渇望(飽くなき欲求)にも似ているように思う。
因みにCMRと真逆のEQが高くてIQが低い人の代表的人物は幕末から明治期に宮城県に実在した人物、仙台四郎(芳賀四郎)だろう。知的障害のあった彼はお気に入りの場所で柔やかに座っているだけだったが誰からも愛されて自然と其処に人が集まるから立寄る店は皆商売が繁盛したという。宮澤賢治が「雨ニモマケズ、イツモシヅカニワラッテヰル、サウイフモノ」との表現でメモ帳に遺した理想の人は、そのモデルと言われるキリスト教伝道師(思想家:内村鑑三の高弟、斎藤宗次郎)よりも仙台四郎の人物像の方が私の頭の中では不思議なくらいにしっくりくる。通説を否定するものではないが岩手県に暮らした宮澤賢治が無意識の内に近県の人神様の逸話の影響を受けていたとしても何らおかしくはない。
さて、話を戻そう。一般的なCMRも自分がCMRだという自覚は無い。多くは知識・経験不足から勘違いしただけの八つ当たりであったり、歪んだ正義感や価値観による暴言だったりする。中には商談を自分に有利なものとしたいが為の横暴な威圧行為もある。(机をバンバン叩きながら強引な要求する人などが該当)尚、如何ともし難いのはカスハラとは本質的には異なる病的な苦情だ。なぜなら加害者本人は本当に耐え難い何かについて切々と苦しみを訴えて改善を要求しているのであって言い掛かりの類いではないからである。常人(普通人)である被害者はそれを理解できないからお互いに苦しむことになる。常軌を逸する強い拘りや超人的な聴覚・嗅覚、極端な潔癖症の類いがそれに近いかもしれない。
私は間違ってしまったことや手違いに関しては素直に謝ることを心掛けているが、どんな強面の人が声を荒げても、どんな頭脳明晰な人が巧みな弁論術を用いても、理不尽な要求や不当な言動に屈することはない。信義誠実に反してまで案件にしがみつき、守銭奴的に利益を追究するつもりが無いからである。よって、真心が通じない人に対しては真心を理解して貰う努力と能力が足りない自分を恥じて清く取引やご用命を辞退申し上げることにしている。
CMRには幾つかの常套句がある。だが、私は「お前!」と怒鳴られても「貴方にお前と言われる筋合いはありません。」と涼しい顔で答えかねないし、「訴えるぞ!」と脅されても「是非、そうして下さい。」と答えるかもしれない。「社長を出せ!」と言われましても恥ずかしながら私が当社の代表取締役、褒められる程の者ではないが丈夫な体と心を持ち、雨ニモマケズ、風ニモマケズ、イツモ直向キニ頑張ッテヰル、サウイフモノである。
このコラム欄の筆者
齋藤 裕 (昭和39年9月生まれ 静岡県出身)
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